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横浜地方裁判所 平成6年(行ウ)37号 判決 1996年12月25日

原告

生活協同組合コープかながわ

右代表者理事

山岸正幸

右訴訟代理人弁護士

矢島惣平

長瀬幸雄

久保博道

三五号事件被告

相模原税務署長

中元次富

三六号事件被告

戸塚税務署長

竹澤興一

三七号事件被告

藤沢税務署長

岡崎良則

右三名指定代理人

小尾仁

外六名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  三五号事件

被告相模原税務署長が原告に対し平成六年六月二八日付けでした酒類販売業免許拒否処分を取り消す。

二  三六号事件

被告戸塚税務署長が原告に対し平成六年六月二九日付けでした酒類販売業免許拒否処分を取り消す。

三  三七号事件

被告藤沢税務署長が原告に対し平成六年六月二七日付けでした酒類販売業免許拒否処分を取り消す。

第二  事案の概要(全事件)

本件は、消費生活協同組合である原告が、神奈川県下に開設した三店舗について、それぞれ所轄税務署長である被告らに対し、酒税法九条一項に基づき、酒類販売業の免許申請をしたところ、被告らが、いずれも同法一〇条一一号に該当するとして、その拒否処分をしたことに対し、原告が、酒類販売業の免許制度は憲法二二条一項に違反し無効であるなどとして、その取消しを求めたものである。

一  争いのない事実

1  当事者

原告は、消費生活協同組合法(以下「生協法」という。)に基づく消費生活協同組合(以下「生協」という。)であって、昭和二三年一月に設立され、組合員の生活に必要な物資を購入、加工、生産の上、組合員に対し供給する事業等を行っている者である。

2  酒類販売業免許制度

酒類販売業免許(以下「酒販免許」という。)の制度は、酒類に酒税を課すことを目的に制定された酒税法により設けられた制度で、同法九条一項は、酒類の販売業をしようとする者は、販売場ごとにその販売場の所在地の所轄税務署長の免許を受けなければならない旨規定し、酒販業を営むことを税務署長の免許にかからせている。そして、同法は、人的及び場所的両面から免許要件を定め、一定の事由に該当する場合には酒販免許を与えないことができるとしているが(同法一〇条一号ないし一一号)、このうちの一一号(「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため酒類の製造免許又は酒類の販売免許を与えることが適当でないと認められる場合」)に関する内部的基準として、平成元年六月一〇日付け間酒三―二九五(例規)国税庁長官通達(「酒類の販売業免許等の取扱いについて」)の別冊「酒類販売業免許等取扱要領」(以下「免許取扱要領」という。)第2章、第3、1、(1)、ハは、

「次の各号のいずれかに該当する者には、当分の間免許を付与しない。

(イ) 設立の主旨からみて販売先が原則としてその構成員に特定されている法人又は団体。ただし、その法人又は団体の申請販売場の所在地の周辺地域内に居住している住民の大半が、これらの法人又は団体の構成員となっている場合でその近辺に一般酒類小売販売場がなく、消費者の酒類の購入に不便であり酒類の需給状況からみてもこれらの者に免許を付与する必要があり、かつ、これらの者が酒類小売業を営んでも、適正な酒類の取引を損なうおそれがないと認められるときはこの限りではない。」と規定している(以下「本件拒否規定」という。)。

3  本件各酒販免許申請

(一) 原告は、昭和五二年、相模原市相模大野七丁目三七番地四において店舗「上鶴間店」を開設し、平成五年、同店を改築して「ハーモス相模大野」とし、組合員に対し、各種食料品、米、たばこ、衣料品、医薬品、家具、その他の商品の供給事業を行っていたが、当該地域の組合員から、酒類を購入できない不便さを訴える声が相次いだため、同店において酒類の販売を行うことを計画し、平成五年九月二〇日、被告相模原税務署長に対し、酒税法九条一項に基づき、酒販免許申請をした。

(二) 原告は、昭和五三年、横浜市栄区小菅ケ谷町一八三三番地において店舗「小菅ケ谷店」を開設し、各種食料品、米、たばこ、衣料品、医薬品、その他の商品の供給事業を行っていたが、当該地域の組合員から、酒類を購入できない不便さを訴える声が相次いだため、同店において酒類の販売を行うことを計画し、平成五年九月三〇日、被告戸塚税務署長に対し、酒税法九条一項に基づき、酒販免許申請をした。

(三) 原告は、平成三年、神奈川県藤沢市柳島一丁目九番四一号において店舗「柳島店」を開設し、各種食料品、米、衣料品、医薬品、その他の商品の供給事業を行っていたが、当該地域の組合員から、酒類を購入できないことの不便さを訴える声が相次いだため、同店において酒類の販売を行うことを計画し、平成五年九月三〇日、被告藤沢税務署長に対し、酒税法九条一項に基づき、酒販免許申請をした。

(四) 原告は、以上三店舗のいずれについても、生協法一二条三項に規定する「組合員以外の者に事業を利用させることの許可」(以下「員外利用許可」という。)を受けていない。

4  本件各免許拒否処分

(一) 被告相模原税務署長は、原告のハーモス相模大野店に係る平成五年九月二〇日付け酒販免許申請について、酒税法一〇条一一号に規定する「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため酒類の販売業免許を与えることが適当でないと認められる場合」に該当するとして、平成六年六月二八日付けで酒販免許拒否処分をした。その理由は、次のとおりである。すなわち、ハーモス相模大野店は、員外利用許可を受けておらず、不特定多数の消費者を対象として酒類を継続的に販売することができないから、本件拒否規定に該当し、免許付与の要件を満たさない。なお、前記のとおり、本件拒否規定はただし書を設けているが、ハーモス相模大野店の周辺には、一般酒類小売販売場が既に存在しているから、本件申請は、このただし書の規定にも該当しない。

(二) 被告戸塚税務署長は、原告の小菅ケ谷店に係る平成五年九月三〇日付け酒販免許申請について、前記(一)と同様の理由により、酒税法一〇条一一号に該当するとして、平成六年六月二九日付けで酒販免許拒否処分をした。

(三) 被告藤沢税務署長は、原告の柳島店に係る平成五年九月三〇日付け酒販免許申請について、前記(一)と同様の理由により、酒税法一〇条一一号に該当するとして、平成六年六月二七日付けで酒販免許拒否処分をした。

5  審査請求

原告は、本件免許拒否処分について、いずれも平成六年七月二九日、東京国税局長に対し、行政不服審査法に基づく審査請求をしており、現在審査中である。

二  本件争点と双方の主張

1  酒販免許制度の合憲性

(被告らの主張)

職業の許可制は、職業選択の自由及び職業活動の自由を保障した憲法二二条一項に対する制限であるから、これが同項の規定に違反しないというためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものと解すべきである。そして、憲法は、租税の納税義務者、課税標準、賦課徴収の方法等について、すべて法律又は法律の定める条件によることを必要とするとのみ定め、その具体的内容を法律の定めるところに委ねているところ、この租税法の定立については、性質上、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断に委ねるほかはないから、租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のための職業の許可制による規制については、その必要性と合理性についての立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限りは、憲法二二条一項に違反するものではないというべきである。

酒税法は、昭和一三年法律第四八号による改正により、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のため、酒税の納税義務者とされた酒類製造者のため、酒類の販売代金の回収を確実にさせることによって、消費者への酒税の負担の円滑な転嫁を実現する目的で、これを阻害するおそれのある酒販業者を免許制によって酒類の流通過程から排除することとしたが、これは、酒税が沿革的にみて国税全体に占める割合が高く、これを確実に徴収する必要性が高い税目であり、しかも酒類の販売代金に占める割合が高率であったことに鑑みると、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという重要な公共の利益のために採った必要かつ合理的な措置であったということができる。

そして、今日、酒税収入の国税収入全体に占める割合が平成四年度においては約3.6パーセントと低下しているものの、金額的には一兆九六〇九億六一〇〇万円で、税目別では五番目に位置していることや、酒税の税率がなお非常に高いことに照らせば、前記のような酒販免許制度は、未だ必要性と合理性を失っていないというべきである。また、酒類は致酔性を有するし好品であるから、その販売が無秩序に放任されてよいとはいえず、その観点からも、販売が規制されるのはやむを得ないということができる。したがって、本件各拒否処分がされた平成六年当時、酒販免許制度を存置させるものとした立法府の判断は、未だ政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱し、著しく不合理であるということはできず、憲法二二条一項に違反するものということはできない。

(原告の主張)

酒税法九条以下の酒販免許制度は、昭和一三年の立法当時から六〇年近く経過した今日、社会経済情勢の変遷等により、これを理由あらしめる社会的事実が消滅したか、若しくは著しく希薄になったといえる。まず、最も特徴的なこととして、酒税の国税収入全体に対する割合が、昭和二八年には約一八パーセントであったのに、その後漸次低下し、平成元年度以降は三パーセント台に過ぎなくなっている。酒税の税率が他の租税と比較して高率である点はそのとおりであるとしても、右のように、国税収入に占める酒税自体の重要性が急激に低下している事実は重視されるべきであり、酒税のみについて、その保全のため酒販免許制度を維持する合理性は見い出し難い。また、戦後ビール、ウイスキーの消費の割合が増え、それらを製造する大企業が酒税のほとんどを納税しているのが現実であり、現在では、酒税保全のため酒販免許制度を維持する必要性は存在しなくなっている。さらに、酒類の流通経路、販売方式・代金決済の方法等も著しく変化しており、昭和一三年当時に比較して、業者の経営基盤が弱体化するような要素は格段に減っている。加えて、行政等による酒販業者の保護育成策が行われ、企業の経営維持の手法も確立して、業者の濫立による経営悪化の事態は、現在では極めて発生しにくいものになっている。しかも、近年の規制緩和の流れからすると、憲法の営業の自由を制限する目的として挙げられる「重要な公共の利益」は、酒税の保全という利益のみならず、自由な経済活動を保障することによる国民経済にとっての利益をも総合考慮してその内容を決すべきである。このようなことからすれば、酒販免許制度をこれ以上存続させることは、立法府として許された裁量の範囲を逸脱し、著しく不合理であるといわざるをえず、憲法二二条一項に違反するものというべきである。

2  酒税法一〇条一一号の合憲性

(被告らの主張)

酒税法一〇条一一号は、税務署長が酒販免許を与えないことができる場合の一つとして、需給均衡を維持する必要がある場合を掲げるが、これは、一定地域内における酒類に対する需要量は当該地域に存在する販売場の数にかかわりなくほぼ一定していることから、当該地域における酒類の需要量に比して酒販業者が濫立することにより過当競争を招き、経営不安定となる販売業者が生じて、酒類製造業者において酒販代金の回収が困難となるような事態が発生することを防止しようとする趣旨に出たものであり、必要かつ合理的な規定といえる。したがって、これが立法府の裁量の範囲を逸脱し、著しく不合理であって、憲法二二条一項に違反するということはできない。もし仮に、酒類の需給の均衡をすべて市場原則に委ね、酒販免許を付与するのに何らの基準も設けないとすれば、酒販店の増加により過当競争が生じ、これが酒販店の経営の悪化を招き、ひいては酒類製造業者の販売代金の回収、酒税の転嫁を困難なものにするであろうことは容易に予想されることであり、採り得ない。

(原告の主張)

事業活動の参入制限を目的とする需給の調整は、自由主義経済体制の下にあっては、十分な合理性と必要性がなければ許されない。しかるに、酒税法一〇条一一号は、酒税の保全という一般的な目的のみで、このような参入規制としての需給調整を行うものであり、市場経済の原則に違反する。また、この規定は、需給調整の判断機関を税務署長としているが、現行法上これを適切に行い得るのは公正取引委員会のみであり、税務署長にその判断を委ねることは相当とはいえない。さらに、酒税法一〇条一一号は、いかに適格な者でもこれを排除してしまうものであり、酒税法が目的とした酒税の保全とは矛盾する結果をもたらしている。被告らは、業者の濫立等により過当競争を懸念するが、仮にこのような事態が発生して、このことにより酒販業者の経営に影響を及ぼすおそれが生じたとしても、現行法は、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(以下「酒団法」という。)により対処する法制度が別途存在し、同法による酒類の製造販売等に関する規制等を行うことができるから、酒税の確保には支障がない。その上、この規定は不明確であり、行政庁の恣意的判断を許すものとなっている。したがって、酒税法一〇条一一号は、酒販業に関する限り、職業選択の自由に対する規制立法ないし租税立法において許容される立法府の判断の裁量を逸脱し、著しく不合理であって、憲法二二条一項に違反する。

3  本件拒否規定の合理性

(被告らの主張)

現行の免許取扱要領は、酒税法一〇条一一号の要件を具体化する形式的・統一的基準として、人口基準を採用している。これは、酒販免許の付与について、小売販売地域ごとに需要を示す客観的計数である人口を把握し、それを合理的に算出された人口基準という計数で割り、供給する酒販店の数を算出するという方法を採るものであり、行政の恣意性を排除し、客観性・合理性を担保するものとして、十分な合理性を有する。そして、この人口基準により算出された酒販店の数に基づき付与される免許は、酒販業者が酒類を購入しようとするすべての消費者に販売できることを前提とするものであり、特定の構成員のみにしか販売し得ない制限を有する法人等に対しては、その制限を解除し、需要と供給との客観的関係を確保しない限り付与できず、また、そのような前提においてのみ、一定の小売販売地域内において、人口基準によって算出された販売店の数を超える酒販免許の申請者に対し、酒税法一〇条一一号の規定により、免許を拒否し得ることの客観性・合理性が確保される。

このように、一般酒類小売業免許が小売販売地域ごとの人口基準に基づき算定した免許枠の範囲内で付与されるものであることから、免許の効果は一般消費者に平等に広く行き渡ることが要請されるのであり、それにもかかわらず、販売先が原則としてその構成員に特定されている法人又は団体に免許を付与した場合には、一般小売店の場合と異なり、免許を付与された店舗を利用できる者がその構成員、組合員といった特定の者に限定され、それ以外の一般消費者が当該店舗を利用できず、消費者間に不公平が生じる結果になるし、そのような場合、組合員等の構成員以外の消費者の利便に資するためには、新たに一場免許を付与する必要が生じ、当該小売販売地域に新規参入者の申請がある場合には、当然に申請を受理し右免許が付与される場合が出てくる結果、右法人又は団体並びに新規参入者ともに経営の基礎が弱体化し、ひいては酒税の保全が困難となる事態も予測されることになる。

また、生協については、法人税等の優遇措置があることから、販売先の棲み分けがない限り、一般の酒販店は自社の経営努力をもってしては生協と対等に勝負できないことともなり、一般酒類小売業免許を付与された生協の店舗の予定販売地域には、経営面から一般の酒販店の新規参入が図られないこととなる結果、組合員等以外の消費者は不便を感じることになり、結果的に消費者が酒類の購入を動機として、酒類の販売場を有する特定の生協に加入することを国が後押ししてしまう結果になることも懸念される。

以上のとおり、本件拒否規定は、酒税の保全上、酒類の需給の均衡を維持するという目的のために十分な合理性を有するのであり、酒税法一〇条一一号を具体化するものとして、適法というべきである。そして、本件拒否規定は酒税法を適用するための通達であり、生協法はこれと異なる趣旨、目的で制定されたものであるから、本件拒否規定は生協法一一条に違反するものではない。

なお、生協といえども、員外利用許可を受けるなど、一般の酒販店に対する一般酒類小売業免許の要件を具備している場合には、一般の酒販店と同様に免許が付与されることになるのであり、原告は、一般酒類小売業免許の申請に当たり、神奈川県知事から員外利用許可を受ければ、免許付与可能な申請者となり得るものである。

(原告の主張)

(一) 被告らは、本件拒否規定が合理性を有することの根拠として、まず、需給調整上の要件として人口基準を設けたことによる必要性を掲げる。しかし、現行の人口基準は、過去の免許付与の実状、現状の酒類売上金額を維持するために必要な人口数を参酌して決定することとされているなど、要は、現状の売上高の維持を指標とする販売業者数の抑制を目的とするものであり、これによっては、酒税法が想定する需給調整基準としての要件を満たさない。すなわち、酒税法が想定する需給調整基準は、多数の小売業者の倒産等を招かないための基準であり、これは現行の人口基準とは全く異なるはずである。また、酒税法は、現在では、通常発生する程度以上の販売業者の倒産等の事態の発生の防止が眼目となっているのであり、現行の人口基準が内容とする、現状の業者数や売上高の維持といった観点からの基準に合理性はない。また、現行の人口基準は、地域ごとに基準人口に差を設けているが、これにも何らの合理性はない。要するに、現行の人口基準は既得業者の権益保護基準にほかならないのであり、そこに被告らの主張するような合理性を見い出すことはできない。

仮に、現行の人口基準に合理性があるとしても、この人口基準の存在を理由に本件拒否規定の合理性を基礎付けることはできない。すなわち、被告らは、本件拒否規定に該当する団体に免許を付与すれば、一定地域に居住する者のうち、当該団体から酒類を購入する可能性がない者が存在することになり、人口基準によっては需給の調整を図ることができなくなると主張するが、人口基準によって需給の調整を図るとは、具体的には、一定の地域にその地域の人口を基準人口で割った数以上の販売場を認めないということであるから、その数の範囲内である限り、酒税法が防止しようとしている過当競争が生ずるおそれはないことになり、その販売場の一部が、その地域に住んでいる人のすべてが利用できるものであるか否かは理論上関係ないのであり、これにより需給の調整が図れなくなるものではない。

この点に関する被告らの主張は、何ら事実上の裏付けを伴わない架空の議論である。

また、本件拒否規定は、現行の人口基準が採用された平成元年以前から存在していたから、人口基準と本件拒否規定とは直接の関連性がないし、人口基準を採用していない大型店舗酒類小売業免許や特殊酒類小売業免許にも本件拒否規定が準用されており、この点からも、本件拒否規定が人口基準とは無関係に制定されたことが明らかである。

さらに、免許取扱要領における酒類小売業者の共同購入機関に対する免許(卸売免許)に関する規定によれば、卸売に関しては販売先がその構成員に特定されている中小企業等協同組合法に基づく協同組合にも問題なく免許を付与しており、右免許が付与される協同組合と原告とを比較すると、単に卸売か小売の違いに過ぎないから、小売の段階でも免許が付与されるべきである。また、免許取扱要領が、共同購入機関に免許を付与する場合には、需給調整上の要件を満たしていなくとも差し支えないと定めていることからすれば、販売先がその構成員に特定されている団体に免許を付与する場合には、需給の均衡を乱すおそれが少ないということを前提にしていることにほかならない。

なお、被告らは、本件拒否規定が合理性を有することの根拠として、消費者の便益からくる必要性を掲げるかのようであるが、もともと、酒税法は消費者の便益を免許要件としていないのであり、これを免許要件として持ち出すのは、行政機関として許されない立法行為である。

本件拒否規定は、その実質ないし実態において酒税の保全を目的としたものではなく、既存小売業者の既得権益を保護することを真の目的としたものにほかならない。

(二) 本件拒否規定は、酒税法の運用に当たって、行政機関が定立した行政事務処理上の規定であるから、もとより法律に従ったものでなくてはならない。しかるに、酒税法には、本件拒否規定を設けることを許すような定めは全く見当たらず、本件拒否規定は、酒税法一〇条各号に定められた免許拒否要件以外に行政機関が法律によらずして新たな要件を加えるものであり、許されない。そもそも、本件拒否規定は、昭和一三年の酒販免許制度の制定時には存在せず、当時の議会の政府答弁では、生協の前身である産業組合にも免許を付与することを考えており、酒税法の立法者の意思は、販売先がその構成員に限定される団体にも免許を付与することにあったと考えられるから、行政上の運用基準に過ぎない免許取扱要領において、「当分の間」とはいえ、右意思に反する本件拒否規定を設けたことは、明らかに違法、不当である。

(三) 生協は、特別の理由のない限り、生協であるが故に、他の免許申請者と差別されて不利益な取扱いを受けることはない(生協法一一条)。また、生協は、原則として組合員以外の者にその事業を利用させることはできないが(同法一二条三項)、これは生協が相互扶助の理念に基づく協同組合であることから当然のことである。このため、生協が物品の販売を行う場合、原則として、その販売先は構成員に限られる。しかるに、本件拒否規定は、生協が、販売先が構成員に特定されている団体であるとして酒販免許を付与しないことにしているが、これは、生協が生協であるというそれだけの理由で右免許の付与を拒絶するものであり、生協法一一条に違反する。

このことは、本件拒否規定に合理性があるか否かという以前の問題である。そして、右「特別の理由」とは、酒販免許についていえば、需給調整要件としての免許枠そのものであり、生協といえども、所定の免許枠の範囲に入らなければ事業を営むことはできないが、この免許枠への参入の機会自体については、正に他の業者と均等に扱われなければならない。

なお、被告は、員外利用許可を得ればよいと主張するが、以下のとおり失当である。すなわち、生協法一二条三項の員外利用許可は、本来、利用を組合員のみに限定するときは、国民経済の立場からも無駄と不合理を生ずることが予想され、また、その事業が公益的要素を多分に有するときは、組合員の利用に支障をきたさない場合に限り、特に許可をして利用者の範囲を拡張し、その利益を享受させることが目的で、病院、託児所、風呂屋等が想定される。そして、その後の改正で、同法一二条四項により、「中小小売商の事業活動に影響を及ぼし、その利益を著しく害するおそれがあると認めるとき」は、員外利用許可をしてはならないとされ、員外利用許可は原則禁止の趣旨がさらに強められた。このような生協法の趣旨に照らすと、酒販免許の付与に際し、原告に員外利用許可を求めることは、酒税法の領域に生協法の問題を持ち込むもので、しかも、生協の本質を無視した極めて不当、不合理なものである。そして、現実の員外利用の状況は、原告が員外利用許可を得て酒販免許を有している他の三店舗の合計でみても、すべての員外利用者の割合が0.46パーセント、酒類を購入した員外利用者の割合が0.14パーセントと極めてわずかであり、この点からみても、被告らの要求は、現実的基盤を持たない、いわば観念の産物でしかないことが明らかである。なお、現在、神奈川県においては、事実上、酒販組合の同意を得ない限り、員外利用許可を出さない扱いがされているところである。

4  本件拒否規定ただし書の該当性

(被告らの主張)

本件拒否規定ただし書は、離島のように他の地域と隔絶した地域、あるいは交通手段が未発達な山間へき地等において、当該地域に居住する住民の利用できる店舗(販売場)として、申請に係る法人又は団体の店舗(販売場)以外にない場合に限り、消費者の利便に資する観点から適用されるものであり、住民のほとんどすべてがこれらの構成員等になっている場合をいうものである。しかし、原告の各申請店舗の場合、当該予定販売地域内に、既存の酒販店があり、消費者にとって、酒税法の観点から酒類の購入に不便をきたしているとは考えられないから、本件拒否規定ただし書の要件を欠くことが明らかである。

(原告の主張)

本件免許申請は、当該地域における原告組合員の加入者数(平均六割)や既存小売店との距離関係(免許取扱要領の一般酒類小売業免許の距離基準を満たしている。)などからして、このただし書の要件に該当するとみるべきである。少なくとも、何ら需給の均衡に影響のない本件各免許申請の如き場合には、本件拒否規定ただし書に該当するものとして、免許は付与されるべきである。

被告らは、本件拒否規定ただし書は、離島や山間へき地のような場合を想定した規定であるというが、昭和三八年の通達や現行の免許取扱要領において、山間へき地等は、免許の特例として別扱いされており、右ただし書が山間へき地等に関する免許の問題とは異なる趣旨のものであることは明らかである。仮に被告ら主張のとおりであるとすると、山間へき地等の住民で生協の組合員でない者は、酒類の購入が事実上できなくなり、不合理である。

5  理由不備

(被告らの主張)

本件各拒否処分は、原告の一般酒類小売業の免許の申請に対し、免許取扱要領に従いされたもので、理由附記の不備はない。

(原告の主張)

本件各拒否処分は、理由不備として取り消されるべきである。

すなわち、被告らは、一般酒類小売業免許は、不特定多数の消費者を対象として販売する場合に付与される免許であり、原告の本件各免許申請は、この点で一般酒類小売業免許の前提を欠くとして、それだけの理由で免許申請を拒否した。しかし、法律上の区分でない一般酒類小売業免許について、一定の概念構成をした上、それに当てはまらないからといって、それだけで直ちに免許申請の前提を欠くなどとして免許を拒絶することは許されない。なお、一般酒類小売業免許が不特定多数の消費者を対象にするものでなければならないとの解釈が、その内容から当然に導き出されるものではない。また、一般酒類小売業免許が出せないというのであれば、それ以外の免許が出せないかを検討すべきであるのに、この点についての検討の跡は窺えず、その旨の記載もない。

第三  当裁判所の判断

一  争点1(酒販免許制度の合憲性)について

1  職業を許可制としても、それが重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置と認められる場合は、憲法二二条一項に違反するものとはいえないというべきである。そして、憲法は、租税の納税義務者、課税標準、賦課徴収の方法等について、すべて法律又は法律の定める条件によることを必要とするとのみ定め、その具体的内容は、法律の定めるところに委ねているところ、租税法の定立については、その性質上、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断に委ねるほかはないから、租税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のために職業を許可制とすることは、それが必要かつ合理的なものであり、しかも、それについての立法府の判断が、右の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理なものでない限りは、憲法二二条一項に違反するものではないというべきである。

酒税法が昭和一三年法律第四八号の改正により採用した酒販免許制度は、右のような職業の許可制の一つであるが、酒税が沿革的にみて国税収入全体に占める割合が高く、これを確実に徴収する必要性が高い税目であり、しかも酒類の販売代金に占める割合が高率であったこと、また、酒税の納税義務者とされた酒類製造業者のため、酒類の販売代金の回収を確実にさせ、消費者への酒税の負担の円滑な転嫁を実現する目的から、これを阻害するおそれのある酒販業者を酒類の流通過程から排除する必要があったことから設けられたものであり、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという重要な公共の利益のために採られた必要かつ合理的な措置であったといえる。

ところで、証拠(乙第一二号証、第二八号証、弁論の全趣旨)によれば、酒販免許制度が採用された昭和一三年度当時における酒税の国税収入全体に占める割合は約13.4パーセントであったが、その後の社会状況の変化と租税法体系の変遷に伴い、酒税の国税収入全体に占める割合は、昭和五一年度には約6.5パーセントになり、消費税が導入された平成元年度には約3.3パーセントになり、平成四年度には約3.6パーセントになったこと、しかし、その収入額は、平成二年度から平成五年度までの間、一兆九〇〇〇億円を超え、税目別の収入の多寡においては、四、五番目の高位に位置しており、また、酒類の標準的な小売価格に占める酒税の割合(消費税を含む。)は、平成六年度において、清酒(旧一級)で16.3パーセント、しょうちゅう甲類(二五度)で25.5パーセント、ビール(大びん)で45.5パーセント、ウイスキー(四三度、旧特級)で41.3パーセントと、依然として極めて高率であることが認められ、酒税が国税において主要な税目を占めていることに変わりはないというべきである。そして、酒税の仕組みが前述したようなものであり、それが本来消費者に負担が転嫁されるべき性質の税目であること、酒販免許制度によって規制されるのが、そもそも致酔性を有するし好品である性質上、販売秩序維持等の観点からもその販売について何らかの規制が行われてもやむを得ないと考えられる商品であること等を考慮すると、平成六年の本件各免許拒否処分当時においてなお、酒販免許制度を存置するものとした立法府の判断が、政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱し、著しく不合理であり、憲法二二条一項に違反するということはできない。

2  原告は、酒税法制定以来の社会経済情勢の変遷等により、酒販免許制度を理由あらしめる社会的事実は消滅したか、若しくは著しく希薄になったとして、国家収入に占める酒税自体の重要性が急激に低下している事実を掲げる。しかし、前述したように、酒税収入額が高額であり、また、酒税負担率が極めて高いことなどからして、酒税が国税の主要な税目であることに変わりはないのであって、酒税の国税収入全体に占める割合が低下しているからといって、直ちに、酒販業免許制度を理由あらしめる社会的事実が著しく希薄になったということはできない。なお、原告は、揮発油税等につき、酒税と同様の高率の間接税でありながら、その販売業に免許制が採られていないことをもって、酒販免許制度の合理性に疑問がある旨主張するが、揮発油の販売業者であるガソリンスタンドには、有資格者(危険物保安監督者)を置く必要がある上、証拠(乙第一三号証)によれば、ガソリンスタンドを新規に出店するためには、用地、設備等に多額の資金を必要とする関係から、確実な資金的基盤を要することが認められ、酒販業者とは産業構造を異にしているといわざるを得ないから、酒税と揮発油税とを同一に論ずることはできない。

また、原告は、戦後ビール、ウイスキーの消費の割合が増え、それらを製造する大企業が酒税のほとんどを納税しているのが現実であり、現在では、酒税保全のため酒販免許制度を維持する必要性は存在しなくなっていると主張する。しかし、ビール、ウイスキーといえども、その大部分は中小の酒販業者を通じて販売されているのであり、たとえ大企業といえども、これらの酒販業者の経営の安定が図られ、販売代金が回収されてこそ確実な酒税の納付が期待できるのであり、大企業が酒税のほとんどを納税しているからといって、酒販免許制度を維持する必要性がなくなったということはできない。

また、原告は、酒類の流通経路・販売方式、代金決済の方法等も著しく変化しており、昭和一三年当時に比較して、業者の経営基盤が弱体化するような要素は格段に減っているとして、酒販免許制度を維持する必要性は存在しなくなっていると主張する。しかし、証拠(乙第三号証)によれば、民間の調査結果による酒類の小売、卸業の倒産は、昭和六三年から平成二年までの間は年間四〇件台、負債総額年間三〇億円前後で推移していたが、平成四年には一〇八件、負債総額八八億円、平成五年には一一四件、負債総額一二一億円に及び、平成六年には一月から一一月までの間一一七件、負債総額一六六億円に及んだこと、その倒産状況は半数以上が個人経営の小売店で、売上高一億円未満のものが三分の二を占め、倒産原因は販売不振を原因とするものが平成四年には二七パーセントであったのが、平成六年には四六パーセントに増加していることが認められるから、原告の主張するような、酒類の流通経路・販売方式・代金決済の方法等の改善が図られていることや酒販業者の倒産率は一般の事業者のそれ(甲第三一ないし第三五号証)に比較すれば、低いことなどを考慮してもなお、酒販免許制度を維持する必要性は存在しているものというべきである。

また、原告は、近年の規制緩和の流れからすると、憲法の営業の自由を制限する目的として挙げられる「重要な公共の利益」は、酒税の保全という利益のみならず、自由な経済活動を保障することによる国民経済にとっての利益をも総合考慮してその内容を決すべきであると主張する。確かに、酒販免許制度についても、近時の規制緩和の流れも尊重して検討しなければならないことは原告の指摘するとおりであるとしても、前述したような酒税の重要性、酒販免許制度の必要性等を勘案すれば、本件各拒否処分がされた平成六年当時において、酒販免許制度が廃止すべきであったとまでは考えられない。

したがって、原告の主張は、採用することができない。

二  争点2(酒税法一〇条一一号の合憲性)について

1 酒税法一〇条一一号は、酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため酒類の製造免許又は酒類の販売免許を与えることが適当でないと認められる場合には、税務署長は免許を与えないことができるとして、酒販免許の付与に、「需給均衡の維持」の要件を必要としている。これは、一定地域内における酒類に対する需要量が当該地域に存在する販売場の数にかかわりなくほぼ一定していると考えられることから、当該地域における酒販業者の濫立による過当競争を防止するため、需給要件の認定判断を通じて酒販業への新規参入を一定限度で制限し、酒販業者の経営が安定的に行われることを確保することによって、酒税収入の確保を図ろうとしたもので、合理性を有し、かつ、その規定が不明確で、行政庁の恣意的判断を許すものともいえないから、租税法定立についての立法府の政策的、技術的な裁量の範囲内にあるものとして、憲法二二条一項に違反するものではないというべきである。

2  原告は、事業活動の参入制限を目的とする需給の調整は、自由主義経済体制の下にあっては、十分な合理性と必要性がなければ許されないのに、酒税法一〇条一一号は、酒税の保全という一般的な目的のみで、このような参入規制としての需給調整を行うものであり、市場経済の原則に違反すると主張する。しかし、前述したように、酒税法は、酒税が国家財政上重要な地位を占め、その税率が極めて高いことを特に考慮し、酒類販売代金の回収を確実にさせることによって、間接消費税としての酒税の消費者への円滑な転嫁を実現する目的で酒販免許制度を採用し、これにより円滑な酒税の転嫁を阻害するおそれのある酒販業者を排除することにしたものであって、十分な合理性と必要性を有するというべきである。

また、原告は、この規定は、需給調整の判断機関を税務署長としていることについて、現行法上これを適切に行い得るのは公正取引委員会のみであるから、税務署長にその判断を委ねるのは相当でないと主張する。しかし、酒税法一〇条一一号は、酒税の保全のため需給関係を判断するものであるから、その判断機関が、正にその衝に当たる税務署長とされたのは当然であり、これをもって不相当とすることはできない。

さらに、原告は、酒税法一〇条一一号は、いかに適格な者でもこれを排除してしまうものであり、酒税法が目的とした酒税の保全とは矛盾する結果をもたらしていると主張する。原告のこの主張は、酒販業者の自由な参入を認めたとしても、業者の濫立を招く蓋然性は低く、仮に業者の濫立を招いたとしても、過当競争を生ずる蓋然性も、それにより経営不振が発生する蓋然性も低いという前提に立つものと思われるが、酒販業者の経営状況が現時点においても良好といえないことは前記認定のとおりであり、酒販業者の自由な参入を認めれば、酒販業者の濫立による過当競争とそれによる業者の経営不安定の事態は避けられないものというべきである。したがって、これを防止するため、酒税法一〇条一一号による需給の調整が必要なのであり、これにより適格な業者が排除される結果になったとしても、やむを得ないものといわなければならない。

なお、原告は、仮に業者の濫立等により過当競争が生じ、これにより酒販業者の経営に影響を及ぼすおそれが生じたとしても、酒団法により対処する法制度が別途存在し、同法による酒類の製造販売等に関する規制等を行うことができるから、酒税の確保には支障がない旨主張するが、酒団法は、酒販業者が自主的に組織した組合によって、いわば自主規制を中心として酒税の確保を図るものであり(同法一条)、免許制度によって、事前に酒税の保全の見地から規制を行う酒税法とはその機能及び方法等を異にし、酒団法のみで酒税の保全をすべて賄い得るものではないから、この法律が存在するからといって、酒税法一〇条一一号の規定が不要であるとすることはできない。

したがって、原告の主張は、採用することができない。

三  争点3(本件拒否規定の適法性)について

1  免許取扱要領の変遷等

酒販免許の取扱いに関しては、酒税法制定以来、行政庁内部の解釈、運用基準として、国税庁長官通達による免許取扱要領等が設けられてきたところ、証拠(乙第一号証、第一九ないし第二二号証、弁論の全趣旨)によれば、その変遷等について、本件に関するものとして、以下の事実が認められる。

(一) 昭和三四年四月一日の酒税法改正に伴い、同年一二月二六日付け間酒二―一六八(例規)国税庁長官通達は免許取扱要領を定め、その中で、酒類小売業(酒類卸売業以外の酒類販売業)の免許について、従前の基準場数制度を廃止し、新たに需給調整上の要件として、小売販売数量基準及び世帯数基準を採用するものとし、同時に、「(四) その他の要件」として、

「次の各号に該当する者に対しては、(一)から(三)のそれぞれに該当しても当分の間免許しないことに取り扱うこと。

(1) 設立の主旨からみて販売先が原則としてその構成員に特定されている法人又は団体である場合。但し、(一)から(三)までに該当する場合であってこれらの法人又は団体の構成員の大半が法人又は団体の申請販売場の所在地域に居住している場合で、その近辺に酒類販売業者がなく、消費者が酒類の購入に不便であり、酒類の需給状況からみてもこれらの者に免許を与えることが必要であって、且つ、これらが酒類販売業を営んでも酒類の正常取引を乱す虞れがないと認められるときはこの限りでない。」

と定めて、本件拒否規定の前身となる規定を置いた。

(二) 右免許取扱要領は、昭和三八年一月一四日付け間酒二―二(例規)国税庁長官通達において、次のように改正された。すなわち、酒税の需給調整上の要件として、形式的基準である小売販売数量基準と世帯数基準のうちいずれかに該当すればよいこととし、ただし、これらの要件に合致する場合でも、既存の酒販業者の経営実態又は酒類の取引状況等からみて、新たに免許を与えるときは、酒類の需給の均衡を破り、ひいては酒税の確保に支障をきたすおそれがあると認められる場合は免許を与えないこと(実質的認定)とし、同時に「二 その他の要件」として、

「次の各号に該当する者に対しては、イからハまでの免許の要件に該当していても、当分の間免許しないことに取り扱うこと。

(イ) 設立の主旨からみて販売先が原則としてその構成員に特定されている法人または団体である場合。ただし、その法人または団体の申請販売場の販売地域に居住している住民の大半が、これらの法人または団体の構成員になっている場合で、その近辺に全酒類小売業者がなく、消費者が酒類の購入に不便であり酒類の需給状況からみてもこれらの者に免許を与えることが必要であって、かつ、これらが酒類販売業を営んでも、酒類の正常取引を乱す虞れがないと認められるときはこの限りでない。」

と定めて、本件拒否規定と同旨の規定をした。

そして、その後、一部の改正を経ながらも、基本的には、右の免許取扱要領を維持する形で実施されてきたが、平成元年六月一〇日付け間酒三―二九五(例規)国税庁長官通達の免許取扱要領において、大幅な改正が行われた。これは、昭和六三年一二月一日に行われた臨時行政改革推進審議会の「公的規制の緩和等に関する答申」の酒類小売販売業に関する提言及び同年一二月一三日に閣議決定された「規制緩和推進要綱」を踏まえ、その具体化措置を講ずる等の必要のため行われたものであり、要は、旧免許取扱要領を社会経済情勢の変化に合わせてより合理化することを目的とした改正であった。その結果、現行の免許取扱要領は、一般酒類小売業免許(同要領は、酒類小売業の免許を一般酒類小売業免許、大型店舗酒類小売業免許、特殊酒類小売業免許に区分する。)の付与に関し、その要件の一つである「酒類の需給調整上の要件」の認定をできる限り形式的基準の適用によって客観的に行うことができるようにするという観点から、旧免許取扱要領において、需給調整上の要件の認定が形式的基準の適用及び実質的認定の二段階によって行うものとされていたのを、形式的基準の適用によって客観的に行うものとし、その形式的基準として、諸外国の採用している人口基準を採用することにし、併せて、小売販売地域を小学校区単位から原則として市区町村単位に改めた。すなわち、原則として税務署管轄区域内の各市町村を一単位として小売販売地域を設け、その地域について基準人口に基づき酒販業免許を付与できる年度(九月一日から翌年の八月三一日までをいう。)内一般免許枠を確定し、年度内一般免許枠が設けられた小売販売地域について酒販免許の申請を受理し、審査するとしたものであり、より具体的には、以下のとおりである。

(1) 小売販売地域の格付

税務署長は、酒類の販売場数と酒類の消費数量の地域的需給調整を行うために、原則として税務署管轄区域内の各市町村を一単位として小売販売地域を設け、当該小売販売地域を次の三つに区分する。

① 東京都の特別区、人口三〇万人以上の市、若しくはこれらに準ずる市町村(可住地人口密度(市町村の総人口を当該市町村の総面積から林野面積及び湖沼面積を除いた可住面積で除して得られる人口密度をいう。)三〇〇〇人/平方キロメートル以上の市町村をいう。)又はこれらの一部を小売販売地域とする場合、当該小売販売地域をA地域とする。

② A地域以外の市、若しくはこれらに準ずる町村(可住地人口密度一二〇〇人/平方キロメートル以上三〇〇〇人/平方キロメートル未満の町村をいう。)又はこれらの一部を小売販売地域とする場合、当該小売販売地域をB地域とする。

③ A地域及びB地域のいずれにも該当しない小売販売地域をC地域とする。

(2) 基準人口比率の算定

税務署長は、各年度の開始前において、当該年度開始直前の小売販売地域ごとの人口を基準人口(A地域は一五〇〇人、B地域は一〇〇〇人、C地域は七五〇人とする。)で除し、基準人口比率を算定する。

なお、この基準人口は、前記のように免許取扱要領が改正された直近の昭和六二年度における免許付与の実情についての全国的な実態調査の結果、人口当たりの付与比率の平均は、A地域が一五六七人に一場、B地域が一一二六人に一場、C地域が八七八人に一場の割合であったこと、同年度の酒類の販売状況等をめぐる資料によると、酒類の消費金額は五兆三〇二六億円程度と推計され、これを同年九月一日現在の人口(一億二一〇六万人)で除せば人口一人当たりの消費金額は四万三八〇一円となるところ、A、B、C各地域の小売酒販店の平均酒類売上金額に基づいて、現状の酒類売上金額を維持するために必要な人口を推算すると、A地域が一五〇六人、B地域が一〇五〇人、C地域が六一二人となることを参酌して設定された。

(3) 年度内一般免許枠の確定

税務署長は、(2)で算定した各小売販売地域ごとの基準人口比率から、当該小売販売地域に関し各年度開始直前現在すでに付与している一般酒類小売業免許場数を控除して得られる数値を計算値とし、税務署管内の各小売販売地域ごとの右計算値合計を合計値とする。そして、各小売販売地域ごとの年度内一般免許枠は、当該税務署ごとの基準値(当該年度の合計値に平成元免許年度以降税務署において付与した一般酒類小売業免許の件数を加えた数値)を五で除して得られる数値に相当する件数(一未満の端数が生じた場合は切り上げる。)に合計値に占める計算値の割合を乗じて得られる件数とする。

そして、現行の免許取扱要領は、本件拒否規定として、

「ハ その他

次の各号のいずれかに該当する者には、当分の間免許を付与しない。

(イ) 設立の主旨からみて販売先が原則としてその構成員に特定されている法人又は団体。ただし、その法人又は団体の申請販売場の所在地の周辺地域内に居住している住民の大半が、これらの法人又は団体の構成員となっている場合でその近辺に一般酒類小売販売場がなく、消費者の酒類の購入に不便であり酒類の需給状況からみてもこれらの者に免許を付与する必要があり、かつ、これらの者が酒類小売業を営んでも、適正な酒類の取引を損なうおそれがないと認められるときはこの限りではない。」

と定めた。

2  人口基準の合理性

右のとおり、現行の免許取扱要領が採用した人口基準は、酒税法一〇条一一号が、税務署長において免許を与えないことができる場合として、「酒税保全上酒類の需給均衡を維持する必要があるため酒類の販売業免許を与えることが適当でないと認められる場合」と規定していることを受けて、これを具体化する形式的、統一的基準として設けられたものであるが、酒販免許制度が憲法二二条一項の保障する職業選択の自由を制約する制度であることからすれば、酒税法一〇条一一号の「酒類の需給均衡を維持する必要」を判断する具体的基準としての人口基準も、客観性、合理性が担保されたものでなければならないというべきである。そして、前記のように、人口基準は、旧免許取扱要領が需給調整上の要件の認定を形式的基準の適用と実質的認定の二段階によって行うものとしていたのを、形式的基準の適用によってより客観的に行うものとするため採用された基準であり、その内容は、小売販売地域ごとに、需要を示す客観的計数である人口数を把握し、それを合理的に算出された人口基準という計数で割り、供給する酒販店の数を算出するものであり、客観性、合理性を有するものと認められる。

原告は、現行の人口基準が、過去の免許付与の実状、現状の酒類売上金額を維持するために必要な人口数を参酌して決定されるなど、結局は既得業者の権益保護基準になっており、これでは酒税法が想定する需給調整基準としての要件を満たしていないと主張する。確かに、右のような決定要素は、一定の地域において、酒販業者の濫立による過当競争を防止し、酒販業者の経営の安定を図るために考慮された要素であるといえる。しかし、見方を変えれば、それは、人口基準が酒販業者の経営の安定を図ることを目的とした酒税法一〇条一一号の規定を具体化するものとして定められたものである以上当然であり、あくまで酒税の保全を図る目的から、酒販業者の経営の安定を考慮したものにほかならないといえるから、これをもって既得業者の権益保護基準であり、需給調整基準としての要件を満たしていないということはできない。

なお、原告は、人口基準が、A、B、Cの各地域ごとに基準人口の差を設けたことに何らの合理性もないとも主張するが、前記のとおり、A地域は東京都の特別区等いわゆる都市部の酒販店であり、B地域はA地域以外の市等の酒販店であり、C地域はA地域及びB地域以外の都市部でない地域の酒販店であって、これらの地域ごとに、物価水準、人件費等が異なることは明らかであるから、現行の人口基準が、右のような地域ごとに基準人口の差を設けたことには合理性があるものというべきである。

3  人口基準と本件拒否規定

現行の免許取扱要領が採用している人口基準は、結局のところ、一定の地域に居住する者が酒類を購入する可能性があることを前提として、この需要の多寡を人口数を基準として把握し、需給の調整を図ろうとするものにほかならない。したがって、需給調整の判断基準として、このような人口基準を採用しておきながら、他方で酒類の販売先が特定の構成員に限定された団体等に酒販免許を付与すると、一定の地域に居住する住民の中に、当該団体等から酒類を購入できる者と購入できない者とが生ずることになり、その地域について、一律の人口基準により需要の多寡を判断することが困難ないし不可能となるといわざるをえない。また、その地域においては、酒類の販売先が特定の構成員に限定された団体等から酒類を購入する可能性のない者が存在することにより、それらの者との関係で、一律に人口基準により販売場数を算出することの合理性が失われる結果、他の申請者の免許申請に対し、需給の均衡を欠くとしてこれを拒否することができなくなり、距離的に近い地域において、二つの酒販店が競合するという結果が生じ、生協のように税の優遇措置が採られていない一般の酒販店の経営が不安定となり(生協が税法上、優遇措置を受けていることは、争いがない。)、酒類製造業者において、酒類販売代金の回収が困難となるような事態が発生し、これが酒税の安定的な確保に影響を及ぼすことも予想される。したがって、本件拒否規定は、いわば、人口基準を採ることから当然に導き出されるものといえ、人口基準が合理性を有する以上、本件拒否規定も合理性を有するということができる。そして、弁論の全趣旨によれば、一定の地域におけるすべての消費者の利益に適切に応えられる申請者からの多数の免許申請がされていると推認される今日の状況では、本件拒否規定が定めるように、なお「当分の間」これを維持する必要があるものといえる。

原告は、人口基準に合理性があるとしても、これにより需給の調整を図るとは、一定の地域にその地域の人口数を基準人口で割った数以上の販売場を認めないということであるから、その数の範囲内である限り、酒税法が防止しようとしている過当競争が生ずるおそれはないことになり、ある販売場がその地域に住んでいる人すべてが利用できるものであるかどうかは、人口基準による需給の調整とは関係がないと主張する。しかし、前述したように、酒類の販売先が特定の構成員に限定された団体等に酒販免許を付与することにすれば、そもそも人口基準による需給の調整を図ることは困難ないし不可能になるから、にわかに原告の主張するようにはいえない。

また、原告は、本件拒否規定は現行の人口基準が採用された平成元年以前から存在していたから、人口基準と本件拒否規定とは直接の関連性がないと主張する。しかし、前記認定のとおり、本件拒否規定の前身が設けられた昭和三四年の免許取扱要領においては、昭和三八年の改正に至るまで、小売数量基準及び世帯数基準が採用され、また、右改正では、形式的基準としては、右基準のいずれかに該当すればよいとされたが、世帯数基準は、人口基準と同様、一定の地域に居住する者が酒類を購入する可能性があることを前提として、酒類の需要の多寡を世帯数を基準として把握するものであったから、本件拒否規定は、人口基準と関連性がないとはいえない。

また、原告は、人口基準を採用していない大型店舗酒類小売業免許や特殊酒類小売業免許にも本件拒否規定が準用されているとして、この点からも本件拒否規定が人口基準とは無関係に制定されたことが明らかであると主張する。しかし、弁論の全趣旨によれば、大型小売店舗について、人的要件のみを審査し、人口基準を適用していないのは、大型小売店舗が、輸入酒類の販売拠点として期待できることや、それが広範囲にわたる地域住民を対象として営業を行う公共性を有することなど、その特殊性に配慮したことによるものであるから、直ちにこれと一般酒類小売業免許とを同一に論ずることはできない。また、特殊酒類小売業免許(観光地等酒類小売業免許、駅構内等酒類小売業免許等)については、その酒類販売場周辺に居住している者が酒類を購入することを予定しているものではなく、その特殊事情が考慮された免許が付与されているのであり、そもそも人口基準を適用することは意味がないから、これを一般酒類小売業免許と同一に論ずることもできない。

また、原告は、免許取扱要領は、卸売に関しては、販売先がその構成員に特定されている中小企業等協同組合法に基づく協同組合にも免許を付与しているのであるから、小売の段階でも免許が付与されるべきであるなどと主張するが、卸売業者と小売業者とはその業態を異にするから、免許取扱要領において、それぞれの業態に則した内容の規定が設けられているのは理由のあることというべきであり、小売業者で組織する協同組合と原告とを、単に卸売と小売との違いに過ぎないとして同一視することはできない。

なお、原告は、酒税法には本件拒否規定を設けることを許すような定めは全く見当たらないから、本件拒否規定は同法一〇条の各号に定められた免許拒否要件以外に行政機関が法律によらずして新たな要件を加えたものであり、許されないと主張する。しかし、前述したように、本件拒否規定は、不確定概念といわれる酒税法一〇条一一号の規定の解釈、適用を明確にし、事務処理を統一的に運用する具体的指針として定められた通達である免許取扱要領において、酒類の需給調整の要件の一環として設けられたものであり、同号の趣旨に照らし、合理的なものといえるから、これをもって、法にない拒否事由を新たに作り出したものということはできない。

4  本件拒否規定と生協法一一条

本件拒否規定により、生協は、生協法一二条三項の行政庁の員外利用許可を受けない限り、原則として、酒販免許を取得し得ないことになる。したがって、このことが、「組合は、前条の事業を行うにあたって、特別の理由がない限り、同種の事業を行う者と同等の便宜を受けることを妨げられない。」と定めている生協法一一条に違反しないかどうかが問題となる。原告は、この点に関し、生協法一一条により、他の酒販免許申請者と平等に免許枠への参入が認められるべきであるのに、本件拒否規定は、生協に対しあらかじめ一律に免許を付与しないことを定めたものであり、同条に違反すると主張する。しかし、本件拒否規定が、設立の主旨からみて販売先が原則としてその構成員に特定されている法人又は団体に免許を付与しないと定めたのは、前述したように、酒税の保全の目的からであり、生協排除の目的からではない。そして、生協といえども、生協法一二条三項の行政庁の員外利用許可を受ければ、一般の酒販店と同様、免許が付与され得るもので、現に、証拠(乙第二六号証、弁論の全趣旨)によれば、一四都道府県において、昭和五五年度から平成元年度までの一〇年間の酒販免許に係る員外利用許可申請件数は一二二件(一三二店舗)で、三件(一二店舗)以外は許可され、これらの申請販売場については、酒販免許が付与されていること、なお、証拠(乙第二五、二六号証、証人井之川平等の証言)によれば、各県において生協が酒販免許を得るためには、これまで員外利用許可を取得する運用がされていること(もっとも、各県によって、その扱いにはかなりの違いがあり、神奈川県ほか数県では、後記のとおり、問題となる運用がされていること)が認められる。そうすると、生協は、員外利用許可を受ければ酒販免許を取得し得るのであるから、本件拒否規定が一律に生協を排除するものとはいえず、よって、これが直ちに不合理であり、生協法一一条に違反すると断ずることはできない。

原告は、この点に関し、酒販免許を取得するために員外利用許可を求めるのは、酒税法の領域に生協法の問題を持ち込むもので、原則的に禁止されている員外利用許可の趣旨ひいては生協の本質に反し、不当、不合理であり、また、員外利用の実態をみると、現実を無視した概念論であると主張する。

確かに、証拠(乙第二五、二六号証)によれば、行政庁は、生協法一二条四項に従い、員外利用許可をするかどうかに当たって、中小小売商の事業活動に影響を及ぼし、その利益を著しく害するおそれがないかどうかを判断しなければならないとされており、員外利用許可には、厳しい規制がされていることが認められ、これによれば、酒販免許を取得するために員外利用許可を求めることは、原告の主張するように、その本来の趣旨に必ずしもそぐわないところがあることは否定し得ない。しかし、前記認定のとおり、現行の人口基準が合理的なものといえることに加え、生協が税法上優遇されており、また、証拠(乙第一七号証、第二九号証、弁論の全趣旨)によれば、生協の出店が一般の小売商に与える影響は(員外利用許可の有無にかかわらず)小さくないと考えられることなどを考慮すると、生協に酒販免許を与えるには、員外利用許可を求めるほかに適切な方法がないといえるから、やむを得ないというべきである。また、原告の主張する実態については、すべての員外利用許可の場合にあてはまるのかも不明であり、しかも、人口基準自体が(前記認定のような経緯で定められたとしても)ある程度観念的なものとならざるを得ないことをも考慮すると、右主張は、直ちに前記判断を左右するには至らない。

なお、原告が酒販免許を得るには、神奈川県知事から員外利用許可を得る必要があるところ、証拠(証人井之川平等の証言、弁論の全趣旨)によれば、現在、神奈川県においては、地元酒販組合の同意がない限り、右許可申請自体を受け付けない扱いとされていることが窺われ、このこと自体、問題というべきであるが、それは、生協法一二条三、四項の解釈、運用から生ずる問題であり、酒税法によるものではないから、そのことの故に、本件拒否規定が不当、不合理になるものとはいえない。

したがって、この点に関する原告の主張は採用することができない。

四  争点4(本件拒否規定ただし書の該当性)について

証拠(甲第一号証の一八、第七号証の一八、第一〇号証の一八、乙第二七号証、弁論の全趣旨)によれば、本件各拒否処分当時、原告のハーモス相模大野店の予定販売地域には二一場の、同じく小菅ケ谷店の予定販売地域には二七場の、同じく柳島店の予定販売地域には七場の各既存販売場があり、これらの予定販売地域については、既存販売場を中心として半径五〇〇メートル(徒歩で七、八分の距離)の円を描くと、各申請販売場の予定販売地域のほぼ全域を網羅することができることが認められる。そうすると、本件拒否規定ただし書の「その近辺に一般酒類小売販売場がなく、消費者の酒類の購入に不便であり酒類の需給状況からみてもこれらの者に免許を付与する必要があ」るときには当たらないから、その余の点について判断するまでもなく、本件各酒販免許申請は、右ただし書に該当しないものといわなければならない。

なお、証拠(甲第四四号証、証人井之川平等の証言、弁論の全趣旨)によれば、確かに原告の組合員には、本件各申請販売場でコープ・ブランドの酒類を購入したいとする希望者が多いが、他方、証拠(甲第四四号証、証人井之川平等の証言)によれば、原告の営業店舗中、員外利用許可を受けた和泉町店、洋光台店、衣笠店が酒販免許を有し、原告の組合員は、この店舗でコープ・ブランドの酒類を購入することができること、また、原告の組合員は、供給事業の利用形態によって、店舗班と共同購入班とに区分されるが、共同購入班は、原告が酒販免許を有する衣笠店から注文によりコープ・ブランドの酒類を購入することができ、店舗班は、原告の卸問屋である箱根丸三産業株式会社から月に一回コープ・ブランドの酒類を直買いすることによりこれを購入することも、また、これを取扱う原告の協力店になっている有限会社植田屋、恵比寿酒店及びまこと屋酒店を利用することによってこれを購入することもできることが認められる。したがって、本件各申請販売場について、酒販免許が付与されなかったとしても、そのことの故に、直ちに原告の組合員がコープ・ブランドの酒類の購入に、特別の不便をきたすことがあるとまではいえない。

なお、原告は、本件拒否規定ただし書は、被告らの主張するような離島やへき地等の場合に当たらないと主張するが、少なくとも、右で判断したところからして、本件各酒販免許申請が本件拒否規定ただし書に該当するとの原告の主張は、理由がなく、採用することができない。

五  争点5(理由不備)について

証拠(甲第一号証の一、第二号証、第七号証の一、第八号証、第一〇号証の一、第一一号証、乙第一号証、第一九ないし第二二号証)によれば、本件各酒販免許申請は、原告のハーモス相模大野店、小菅ケ谷店及び柳島店について、「全酒類小売」の販売業(免許取扱要領第2章、第3、1)の免許を求めるとし、右申請が、本件拒否規定ただし書に該当するとして(なお、員外利用許可は得ていないが、酒税法上は、不要であるとして)されたこと、被告は、一般酒類小売業免許は、不特定多数の一般消費者を対象として販売する免許であるところ、原告は、員外利用許可を受けていないため、一般酒類小売業免許の前提を欠き、また、本件拒否規定ただし書にも当たらないから、酒類の需給の均衡を破る等、酒税法一〇条一一号に該当するとして、本件各拒否処分をしたことが認められる。

右によれば、本件各拒否処分は、原告の一般酒類小売業の免許申請に対し、免許取扱要領に従い、本件拒否規定に該当するとし、また、そのただし書に該当しないとしてされたものであることが明らかで、その処分の理由の附記に欠けるところはないといわなければならない。したがって、この点に関する原告の主張は、理由がない。

六  結論

以上によれば、本件各拒否処分は適法であり、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官浅野正樹 裁判官近藤壽邦 裁判官近藤裕之)

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